≪10. サン・フェリーペ賛歌≫ |
アルゼンチン・ワインの入門酒 アルゼンチンは日本の約8倍の国土を持つ世界有数の牛肉の生産国で、人口(約4500万人)より遥かに多い6000万頭以上の牛がパンパ(大草原)に放し飼いにされている。豊富な牧草(主にアルファルファ:うまごやし)をたっぷり食べて育った肉は柔らかく、アサード(ビーフステーキ)で食べる味は最高である。この肉を食べながら飲むワインも、これまた最高である。アルゼンチンには、肉には赤ワイン、魚には白ワインなどという日本的通説などはない。葡萄の苗木はヨーロッパから移入されたものなので、それから出来るワインもヨーロッパ産にちっとも引けを取らない美味を誇っている。このようなアルゼンチン・ワインを最初に飲む人に奨める、いわゆる入門酒が「サン・フェリーペ」であった。しかし、このワインは今まで、ほとんど日本に輸入されておらず、一般では手に入れることが難しい。毎年秋に東京プリンスホテルで行なわれる、ラテン・アメリカ各国大使館の夫人達が主催するチャリティ・バザーのときに、アルゼンチン大使館のコーナーで売り出されるときがあるので、それを待って買うのが唯一のチャンスであるが、近年は売りだされないようだ。 ワインの評価を書く人は実に巧みな表現を書くものである。宣伝用パンフレットや、瓶の裏側に張られた裏ラベルには、果物、ハーブ、嗜好品など、ワインとは関係なさそうなものの香りや味を感じる、と書かれているのをよく見る。これを書く人はどんな舌や鼻をしているのか知らないが、誠に想像力豊かな人たちである。しかし、美辞麗句を並べ立てた評価も、その人の個人的感覚であって、他の人も同じように感じるとは思えない。私は、ただただ”コク”(ボディのこと、スペイン語でcuerpo、具体的には咽喉を通るときに感じる微妙な刺激のこと、コクがないと味全体が薄いと感じる) があるかないか、酸味が多いか少ないか、香りが良いかどうか、甘味があるかないか、赤の色の純度がどうかくらいしか分からない。 何はともあれ、色々飲んでみることである。アルゼンチンには、ブランコ(白)、ティント(赤)、ロサード(ロゼ)合わせると数千種類もあるかもしれない。私はアルゼンチンに駐在生活をしていた4年間に500種類あまりのワインを飲んだ。スーパーやフィアンブレリーヤ(サンドイッチなどを売るパン屋)、キオスコなどで買うのだが、出来るだけ、それまでにまだ飲んだことのない銘柄のものを買うようにしていた。毎晩、妻と娘とで1本半を空けた。そしてついに、ブエノスアイレス市内で売っている銘柄は殆ど飲み尽くしてしまった。郊外や遠くへ行ったときなどに、地ワインをのむのが楽しみであった・集めた集めたラベルがスクラップブックに10冊になる。このくらい飲むと、ワインの単純な良し悪しが自然に分かってくる。値段の高低と味の良し悪しは必ずしも一致しているとは限らない事も分かる。それらの中でもサン・フェリーペはすべての点で優等生である。つまり、サンフェリーペは、酸味も、甘みも、コクも、香りも、色も、さらには値段も全てが85点なのである。 さて、そのサン・フェリーペであるが、伝統のある白と一緒に、赤の新製品の「サン・フェリーペ・ドセ・ウーバス(doce uvas:12種類の葡萄)という新しいワインを醸り出した。これは従来の赤とは別物である。12種類と言っているとおり12種の葡萄をブレンドしているものだが、10種類は赤で後の2種類は白である。何故白が入っているのか分からないが、特に12種と言う数に拘ったため数合わせに白を加えたのじゃないかと思う。飲み心地はと言うと、先ずは色も口当たりも濃厚で、ほんのりとハーブのような味がしてコクが濃い。ただ12種類もブレンドした割には香りが弱く、後味にちょっと苦味が残るように感じる。でも12種類も合わせたワインは聞いた事がないので、珍しさもあり,幸運に恵まれて手にはいるチャンスがあったら、是非一度飲んでみることをお薦めする。 12と言う数については私の浅学で想像すると、二つの理由が考えられる。一つは、「サン・フェリーペ」とは、キリストの12使徒の一人なので、12人構成をもじって12種類の品種を集めた。もう一つの理由は、ラテン・アメリカ諸国では大晦日の12時に、新年の幸運を祈って12粒の葡萄を食べる習慣があるので、幸運を呼ぶ”12”の数に拘った。しかし、いずれにしても赤品種だけでは12種類に足りないので、白を2種類加えたのではないだろうか。事のついでに12使徒を説明すると、キリストの12人の弟子のことを、”アポストル”と言う。サン・フェリーペの他の11人とは、ペドロ、アンドレス、大サンティアゴと呼ばれたヤコブ、フアン、バルトローメ、トマス、マタイ、小サンティアゴと呼ばれたヤコブ、シモン、タダイのユダ、イスカリオテのユダ、後にイスカリオテに代わりマティアスが加わった。 しかし、今はサン・フェリーペと比べようにも日本では手に入るアルゼンチン・ワインが少ないし、ましてや、サン・フェリーペ自体がとても手に入らない。しかし、なにごとも ”待てば海路の日和かな” で、2000年に入って友人の福岡の洋酒輸入会社「友添商店」がボデーガからの直接輸入が実現し、漸く願いが叶った。輸入元に感謝したが1年ほどで輸入をやめてしまった。またまた入手手段が途絶えてしまった。最後に頂いた3本のトロンテッスをいつ飲むか、決めかねぬまま冷蔵庫の奥に鎮座させている。今となっては、ラテン・アメリカ諸国の大使館が主催する、チャリティ・バザーが唯一の楽しみになってしまった。 この辺でお話を終わらせて頂だこうと思う。 !!!アルゼンチン・ワインの益々の発展を祈って、!サルー(乾杯)!!!
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