≪中南米の観光地≫
   
 日本の民芸品はと言うと各地の観光地とセットになっていることが多い。ところが、南米の国々は先祖の残してくれた文化、遺跡など貴重な観光資源が多いにもかかわらず、経済的利得に結びつける利活用が誠にお粗末である。
  日本からラテン・アメリカ方面へのツアーは、中米ではメキシコ市周辺のアステカ遺跡、グアテマラにあるマヤ遺跡郡、キューバなどを巡るルートが代表的である。
  南米ツアーでは、お決まりの、リマ~クスコ~マチュピチュ~ブエノス・アイレス~イグアス~サンパウロ~リオ・デ・ジャネイロといった、遺跡と素晴らしい景色と民族音楽をミックス したルートが代表的なものだ。しかし、南米ルートのクスコ郊外の遺跡の周囲には殆ど何もないし、マチュピチュも、駅周辺はかなり開発され観光地化されてきているが、マチュピチュ入り口の前にホテル兼レストランあるだけだ。イグアスの滝も、アルゼンチン側にも ブラジル側にも肝心の滝の近くのホテルは1軒しかないは。これらの場所ももし日本ならば、おそらくご本体の影が薄くなるほどに周囲は開発され、ホテル、レストラン、土産物屋なが群がるであろう。

  南米の観光ルートは飛行機便の関係や現地の交通事情などから、どうしてもワン・パターンなものにならざるを得ないとは思うが、このようなルートに含まれない所にも、行く価値のある所は多い。
 例えば、エクアドルの首都キト市の外れにある赤道モニュメントは、南北両半球が一跨ぎに出来る所であるし、オタバロのインディオ市(露天市)は "げてもの料理" の屋台やカラフルな毛織製品などが多いことでは特長的である。コロンビアの首都ボゴタには、市内の一角に素晴らしい夜景を一望に出来るモンセラーテの丘がある。この丘は、ずっと以前に上映された五木寛之原作の映画「戒厳令の夜」の舞台になった。また、郊外のシパキラには全山が塩の山を刳り貫いた中に教会がある。カリブ海に面した歴史ある港カルタヘーナには、昔の海賊防備のお城があるし、南部のサン・セバスチアンには多数の石像があり、いずれも一見の価値がある。

  ペルーでは、お決まりのマチュピチュやクスコ郊外の遺跡群、リマ郊外のパチャカマ遺跡以外にも、近年新しい遺跡がいくつも発掘されているし、南部の白亜の町アレキーパと周辺にも観光ポイントは多い。往復に1週間かけられるなら、太平洋に浮かぶイスラ・デ・パスクァ(イースター島) も行きたい所である。ボリビアにはペルー同様のプレインカ以降の遺跡が無数にある。先住民族の文化のなかったアルゼンチンだって、北部にはインカ族の影響を受けた遺跡や、奇岩怪石の景勝が見られる風景がある。その反面、パラグアイやウルグアイには、残念ながら目ぼしい観光ポイントは殆どないと言ってよい。 しかし、何と言っても、中米はとにかく、南米は日本からは地球の真裏になり、特に南半分の国々はどこをどう回っても約2万キロは飛ばなくてはならない。直行便のあるサンパウロまでは22時間位で行けるが、乗り換えて行かなければならない国になると30時間は有にかかる。簡単には行けないが、行けば行っただけの価値と満足感は十分に得られる所である。

  特にラテン・アメリカは多種多彩の音楽の宝庫である。メキシコボレロ、ルンバ、マリアッチ、キューバソン、トゥローバ、マンボ、サルサ、グアテマラマリンバブラジルサンバ、ボサノーバ、アルゼンチンタンゴウルグアイカンドンベチリクエッカ、ペルーバルス(ワルツ・ペルアーノ)、アンデス・フォルクローレ、トンデーロ、ウワイノ、マリネラ、コロンビアクンビアなどなどの他に、各国とも独自の民族音楽(フォルクローレ)やそれに合わせた踊りがある。どこか面白い国、珍しい場所はないかと考える機会があったら、是非ラテン・アメリカの国々を候補に上げられることをお薦めしたい。

  日本に一番近いラテン・アメリカの国はメキシコだと言うことには誰も異論はないであろう。しかし、私は、フィリピンこそ本当は最も日本に近いラテン系の国ではないかと思っている。なぜならば、800年もスペインの統治下にあって、今でも、スペイン語での人の名前や、町や通りの名称がたくさん残っているし、通貨単位もスペインのペソのままである(注)。
  私はフィリピンを全く知らないが、テレビなどで見るフィリピン人の体型や気質などにラテン(スペイン)の血が今でも流れているような気がする。まあ、それはとにかくとして、ラテン・アメリカと言えば中南米諸国であり地球の裏側である。

  ではいよいよ「ラテン・アメリカの民芸品の旅」を始めよう。ご案内する国は13か国で、メキシコから出発して、まずメキシコ湾を東へ飛び、カリブ海の真珠と言われるキューバ(今はすっかりその輝きを失っているが)を巡り、再び中米はグアテマラに戻り、一路南下して南米大陸のベネズエに入り、そこから時計回りに広大な大陸を回って、最後はコロンビアを終点とする旅である。
  集めた民芸品の数は、国によって行ったときの手荷物の量や日数の関係で、数が少ない国や、逆にたくさん集められた国がある。自分がいたアルゼンチンは元よりであるが、ペルーやチリ、ボリビアなどは比較的多い方である。反対にキューバ、グアテマラ、ベネスエラ、エクアドル、コロンビアなどは、ほんの数点しか集められなかった。これらの国については、紹介する品物も寂しいものであることを、予めお断りしておかなくてはならない。
  お話は、収集した民芸品の写真を紹介して、それに関連する事柄を説明し、観光ポイントなどに触れながら進めていくが、どうしても横道にそれがちである。なるべく本題から外れないようにと思っているが、多少の道草はご容赦願いたい。

  この「民芸品の旅」は、2003年に初版が完成し、2003年春にアップロードした。そして、その後は世界の状況も随分と変わった。民芸品のありようが、政治・経済・軍事問題などに影響を受ける事などあり得るはずはないが、文章の端々にはその国の様子に触れている部分もある。そうした理由から2009年に全面的見直しを行い、そのご暫くは手を入れなかったが、その後�10年余り経ち、あまりにかけ離れた状態の国もあり、初版から20年を経過したのを期に、2023年1月に全面的改訂を行った。ただし、この文の執筆思想に基づき、政治・経済・軍事に関することにはできる限り触れないことにしている。

注)ペソと言う言葉は、重さ、秤、重要性などの意味で、メキシコ、キューバ、ドミニカ、アルゼンチン、ウルグアイ、チリ、コロンビアなどの通貨単位になっている。**

メキシコ編へつづく
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