ブランドものの店や高級品の店が並んでいるが、その中に民芸品や土産物を売る店ばかりが集まった横丁がある。上野のアメ横をもっと狭く、迷路にしたような横丁である。 ここに集まっている店では、銀製品の装飾品や置物類が目に付くが、民芸品としては、壁掛けや、マリアッチの人形が多く、壁掛けにはアステカの暦時計を始め花模様や鳥などを描いたものが多い。また、もう少し高級な店には、ペーパークラフトや木彫りの人形などもあるし、一種の美術品としては、壁などに貼り付ける化粧タイルなどもある。 この他にも市内には、装身具、装飾品、置物、民芸品、やみやげ物などを売る店ばかりがたくさん集まった、だだっぴろい市場があり、観光バスが必ず立ち寄るようになっている。また、ユカタン半島の突端に位置する、最近では日本でも有名になったリゾート地、カンクンと目と鼻の先の沖合いに浮かぶイスラ・ムヘーレス(女達の島)には魚の形をした陶器の壁掛けがたくさんある。 マリアッチはハリスコ州から生まれたメキシコを代表するポピュラー音楽の一つである。最高レベルのマリアッチは、国立芸術院で日曜日に上演しているショーで、全国各地の民族衣装をまとい、伝統音楽や踊りを紹介する中で、たっぷり聞かせてくれる。また、シェラトン・マリア・イサベル・ホテルの中のレストラン・シアターでも一流が毎晩演奏している。 もっと身近で生々しい演奏を聞きたければ、ガリバルディ広場(通称マリアッチ広場)に行けばよい。しかし、ここは、掏りやかっぱらい、たかりなどが大勢いて観光客は危ないと言われていたが、実際はそれほどでもない。ただ、歌わせろと言って客引きするのがしつっこい。 マリアッチを演奏する楽士はチャーロという黒か紺色の短い上着を着て、首にはスカーフを巻き、金色や銀色の縞の入ったズボンを穿いて、縁に飾りのついたソンブレロを被っている。ソンブレロは、革命の頃から愛用されてきた代表的な帽子で、今では実際にはマリアッチが被っているのしか見られないが、民芸品としては大きさも大小様々で、刺繍の模様も色とりどりで美しいものが売られている。 マリアッチ・バンドのフル編成は7〜8人で、1曲5ドル〜10ドル位はする。高いか安いかはその人の価値観によるが、レコードやCDなどで聞くよりも長い時間演奏してくれる。マリアッチ人形は7人揃っているのが一組なので、足りないのは欠陥品である。買う時によく注意することが必要だ。 民芸品で目に付く骸骨の人形は、オアハカ州の死者の祭りに出てくる仮装からもじったものだと思うが、骸骨や白骨も人形になると愛嬌があって面白い。 民芸品には色々な形や衣装をまとった骸骨の人形がある。骸骨は人形だけでなく、国立芸術院の民族踊りの中にも出てくる。オアハカ州はメキシコの代表的な酒の、テキーラと並ぶ有名な地酒メスカルの産地でもある。メスカルは原料もテキーラと同じマグエイの葉で、味もテキーラに似ているが、瓶の底に芋虫が必ず入っているのが気持ち悪い。 メキシコ市内から西へ、高原の道を雄大な景色を眺めながら140キロ行くと銀の町タスコに着く。途中所々にハカランダの紫が浮かび、サボテンがにょきにょき立っている。 この途中にリゾート観光地クエルナバカという面白い名前の町がある.ここは皮細工とペーパークラフトの民芸品の本場である。皮細工はカバン、ハンドバックなどの他にサンダルとかベルト、財布など実用品が主である。ペーパークラフトは鳥とか動物の人形が多い。しかし、壊れやすいので観光旅行では持って帰るのに気を使う。 クエルナバカの観光ポイントの一つに、1552年に建てられたアメリカ大陸でも最も古いと言われる教会があり、その壁画には、長崎の26聖人処刑の絵と共に"太閤秀吉が処刑を命じた"と書いた文字が残っている(注:写真参照)。タスコは国内でも有数の銀製品の産地で、それを売る店が軒を並べており、裏側に回ると、手作業で作る工場があちこちにある。また、アマテと言う樹皮から作るアマテ紙に画いた花や動物の絵は土産物に最適だ。 (注)写真の文字の両端が切れているが、・・・RADOR.TAYCOSAMA.MANDO.MART・・と読める。これは、EMPERADOR TAYCOSAMA MANDO MARTIRIOで、"皇帝太閤様が殉教を命じた"という意味である。 日本の民芸品店で買える中南米の民芸品の中ではメキシコの製品が断然多い。メキシコの民芸品に限って言えば、わざわざメキシコで買わなくても面白いものは手に入りそうだが、最近はこうしたものを売っている店がすくなくなっているようだ。骸骨の人形にいたっては殆ど見たことがない。民芸品は、その国の文化の一面を表わすものであり、旅の思いでをいつまでも残しておけるので、同じ品物でも現地で手に入れたものの方が価値観が高いのは当然である。 (メキシコ編終わり) |
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