≪7.良いワインと、それを飲むグラスの規格、ロサドの運命≫ 《良いワインの条件とは》 1999年8月、アルゼンチンで”ワインについて語ろう”と言うタイトルのワイン専門週刊誌が発行された。この種の雑誌は世界でも余りないだろうとアルゼンチン人は 自慢していた。最初は2000年3月発行の30号までで終わると言っていたが、その後も散発的に発行が続き、結局46号まで発行された。ブエノス・アイレス在住の友人のお陰でバックナンバー全部揃っていたのだが、引っ越しの際、どうした手違いk紛失してしまったのが、返す返すも残念んことである。 テーマは多岐多彩で興味ある記事もある。その中から、「良いワインの条件について」という読んでもさっぱり分からない、まさにアルゼンチン的ともいうべき難文と、普通は殆ど気にもしない、ワイン・グラスの規格に関する記事を紹介する。良いワインの条件とは、分別を備えた人間に例え、権威主義の国らしく、頑固に定義しているが、多分に女性を意識しているようにも見える。しかし、 抽象的で、分かりにくい部分も多く、翻訳には苦労した。
《ワイン・グラスの大きさ》 ワインを飲むにはワイン・グラスが必要なのは当たり前だ。しかし、絶対にワイン・グラスでなければならない、なんて言う規則はない。茶碗で飲んだって、ワインはワインである。でも、それではワインが可哀想だ。ワインは半分は気分で飲むものだらである。 ワイン好きが自分の好きなグラスで飲むのが一番良いに決まっているが、ワイン大国アルゼンチンには、グラスの形や大きさなどにも標準がある。以下は、ブエノス・アイレスで発行されている、ワイン専門誌に載ったグラス談義を大雑把に訳してみたものである. 『先ず、グラスの形であるが、今のグラスの形は、試飲するときの仕草に合わせて出来たものだと識者は言う。試飲は、ワインをグラスの3分の1ほど注ぎ、色合いを賞でて少し揺らし、香りを発散させて鼻を近づけ、くんくんさせながら、まず1杯飲む。それには揺らしてもこぼれず、香りも逃げないチューリップの形が一番適している。 次にグラスのサイズであるが、グラスは大き過ぎても小さ過ぎてもいけない。ワインはグラスに注がれると自然に温度が変化する。一般的にグラスに注がれたワインは、瓶の中にあったときよりも温度が2〜3度上昇する。これは、グラスが通常は20度を越す部屋の中に置かれているのに、ワインは、普通キッチンなどの冷んやりとした場所に置かれているからである。この現象は、8〜12度位の低い温度で飲む白ワインの場合に影響が大きい。従って、大きなグラスはグラス内の面積が広いため、ワインの温度を余計に高くすることを考えると、白ワイン用のグラスは、赤ワイン用のものよりも小さくすべきである。しかしワインを揺らすことができない程小さくてもいけない。 三つ目は、グラスを作る材料についてである。最も適しているのは、言うまでもなくガラスである。(陶器や錫製のグラスもあるし、結構美味しく飲めるとは思うが)。しかし、問題はガラスの厚みである。経験的に言って、ワインの味は厚いガラスのグラスよりも、薄いものに注いだほうが美味しい。これについての科学的に説得できる学説はないが、ワイン鑑定人の長年の経験と感覚が、このような結論を出しただけなのだ。従って、ワインを飲むには、できるだけ薄いガラスのグラスを用いることを勧める。 最後に、それほど重要なことではないが、グラスの色についてである。以前はワインの色にグラスの色を合わせるような習慣があった。しかし、ワインを飲むときの感覚は、まづ、透明なグラスの中のワインの色をしっかりと凝視・鑑賞することが大事だと言われるようになり、みな透明なものを使うようになって、今ではこの習慣はなくなってしまった。確かにこうすることで、ワインの味をより一層楽しむことができる、というものである。 』 いかにも気位の高いアルゼンチンらしい定義付けである。話ついでに、アルゼンチンの専門家が薦めるワイン・グラスの標準的サイズを紹介する。この大きさは長年の経験や研究によって決められたもので、今ではISOでも認められている。 左に示された各部分のサイズは次の通りである。 @口の直径46ミリ、誤差±2ミリ以内。 A一番太い部分の直径65ミリ、誤差±2ミリ以内。 B底の直径65ミリ、誤差±5ミリ以内。 C胴部分の高さ100ミリ、誤差±2ミリ以内。 D脚の高さ55ミリ、誤差±3ミリ以内。 E全体の高さ155ミリ、誤差±5ミリ以内。 F底の厚さ9ミリ、誤差±1ミリ以内。 《ロサド(ロゼ)の消滅》 本場アルゼンチンでは、今日では殆どロサドは姿を消してしまった。そう言えば日本に輸入されているワインにもロサドは見たことがない。理由は、赤をソーダーで割ってもピンク色になるし(特に女性が好む)、赤と白の中間を好む人がそれほど多いとは思わないので、自然に消えたのかと思っていたが、それなりの理由があったようだ。この章ではそれについてお話しよう。 過去20〜30年くらい前までは、ビーノ・ロサド(ロゼ・ワイン)は、大衆向きのテーブル・ワインや高級品と共に、アルゼンチン国民の嗜好の中でも重要な地位を占めていた。長年に渡りペニャフロール(アルゼンチンの大手飲料会社でトラピチェ醸造のオーナー)の製品は殆どロサドであった。 オルフィーラ醸造は赤、白の高級品を醸造している優れた醸造所の一つだが、製品は日本にはまだ輸入されていない。 アルゼンチンのワイン消費に変化が現れだした1980年代頃から、大衆の好みが白や赤に変わっていき、ロサドは次第に市場から姿を消していった。1990年代最後の10年間では赤ワインと発泡酒が急速に伸びた。その理由は、 @”赤ワインは健康に良い”と言う世界的な宣伝のお陰で、”赤ワイン好み”は世界中の流行になったこと。 A1980年代までは白や発泡酒(シャンパン)などがワインの主流であったが、それまで消費が少なかった赤ワインの中に"色の美しさ”が見出されたため、”女王様の飲み物”と言われ、女性に人気が高まってきたこと。 そのほかに,女性の嗜好の変化が男性の嗜好にも大きなインパクトとをもたらしたことがある。それまで外で女性との付き合の時も白ワインを飲んでいた男性が、女性に合わせて赤ワインを飲むようになったことである。 また、2000年代に入って新しい技術が導入され、赤ワインの品質が格段に改良されたことも指摘しなければならない。その他にも、現在も生き残っている例外品種を除き、ロサドには余り良質なものがなかったことも、大衆から見放された原因の一つとも言える。 今日、ロサドが実質的に消滅したのは確かである。現在、市場にあるのは極めて少ない。しかし、将来、ロサドは再びその地位を回復するだろうと言われており、すでに推奨できる銘柄が見られるようになった写真の「オルフィラ・ロサド」などもその一つである。消費者は常に変化を望んでいるので、そのうちには間違いなく、名のある醸造所で作られる、品質が良く廉価なロサドを飲むことが出来るようになるであろう。ロサドは、チーズや美味しい料理のために10度位に冷やすと、とても魅力的な飲み物になる。暑い日に飲む冷えたロサドは、白と同様にとても爽やかな気分にさせてくれ、赤のような色合いも見せてくれるのである。 2023.11 correccio'n (つづく) |
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