【地球の裏側を走る =アルゼンチンの車と人と街並み=】 No.16 第4部 ≪ブエノス・アイレス街巡り≫ 8. 四季の花咲く都大路 (その2) ブエノス・アイレスの街には大小150以上の広場・公園があり、ここにも様々な花が植えられていて、散策する人々の目を楽しませてくれる。道りのあちこちにある花売りスタンドでは、郊外に住む日系人がビニールハウスなどで栽培した、四季の花が一年中売られている。8月末になると「トルメンタ・デ・サンタ・ロッサ(サンタ・ローザの嵐)」が決まってやってきて、じわじわと毛穴から骨の髄まで冷え込んでくる、憂鬱な冬将軍の魔手を吹き飛ばしてくれる。そして、日本人花作りの多い郊外のエスコバール市を始め各地から、花祭りの便りが聞こえてくるようになると、いよいよ春到来である。 ![]() ブエノス・アイレスの9月は日本の4月頃の陽気と同じ、春の花の先陣を切って”つつじ”が咲き出す。中でも日本庭園の赤い太鼓橋のかかる池の周囲のつつじは見事である。しかし、春の花はなんといっても”ハカランダ”であろう。英語読みにすると”ジャカランダ”だが、濁りのある発音は汚らしく聞こえ、気品ある花のイメージに合わない。この花の高貴な印象からしても”ハカランダ”と言うほうがふさわしい。長さ5〜6センチの薄紫の花弁の花が小枝の隅々まで咲き溢れ、都の空を霞がたなびくが如くに紫色に染め上げて、春の陽差しに眩ゆいばかりに輝くのである。高貴な花ゆえに比較的雨や風に弱く、一雨ごとに色褪せて花吹雪のように散り行く様を見ると、日本人はそれぞれの胸中に故国の桜を想い浮かべ、郷愁にかられる。市内にはヌエベ・デ・フーリオばかりでなく、パレルモ公園の遊歩道、、有名な軍人や政治家など金持ちの墓がある「レコレータ墓地」、植物園横の「レプブリカ・アラベ・シリア通り」、そしてサン・マルチン広場などのハカランダが特に樹も大きくて素晴らしい。 ハカランダの紫が盛りを過ぎる12月になると、アルゼンチンの国花”セイボ”の季節に入る。ハワイなどでは”虎の爪”と呼ばれるこの真っ赤な花は、ラ・プラタ川の両岸に多い。ブエノス・アイレスの対岸ウルグアイのコロニア・デ・サクラメントの川岸の砂原の上では、ラ・プラタの赤銅色に濁った川面を隠すかのように、低くこんもりと咲いている。そして、暑さも本格的になるクリスマスの頃になると、このセイボの強烈な赤を和らげるように、”パーロボラッチョ”がほんのり頬を染めたかのような、薄桃色と白の2種類の木が五弁の花をつけ始める。 ![]() この木が何故、酔っ払いの木というのか由来は知らないが、幹がワインの瓶のようだからか、それとも酔っ払う人達には腹が出た太った人が多いからだろうか。「ヘロニモ・サルグエーロ通り」がラ・プラタ川の縁に突き当たる所、国内空港の「ホルヘ・ニューベリー空港」の滑走路東端にはこの木が沢山ある。夕闇を通してこの一群を眺めると、離陸直後のジェット機の腹を見上げた酔っ払いの集団が、両手を広げてわめいているように思えてまことにユーモラスな光景である。 セイボが散り、酔っ払いの花が色が褪せてくると、黄色い房のようなになった”アカシア”の花が大木の梢近くにみられるようになる。そして、セマーナ・サンタ(聖週間)が過ぎると、舗道には”プラタナス”の落ち葉が積もりまた憂鬱な冬が始まる。 ≪写真:上、見事に咲き誇るパレルモ公園のハカランダ。 下、ラ・プラタ河畔に立つパーロボラッチョのユーモラスな姿≫ |
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