【地球の裏側を走る =アルゼンチンの車と人と街並み=】 No.21 第7部 ≪.アルゼンチンとブラジルだけのイグアスの滝≫ ラ・プラタ川は川といっても、大西洋が深くえぐられた大きな湾のような形をしていて、長さ約400キロ、幅も大西洋の出口では同じくらいある。ブエノス・アイレス市の対岸はウルグアイ東方共和国の古いスペイン人入植地、サクラメント・デ・コロニアという町で、この間の川幅は43キロもある。焼き肉料理の店が何十軒と並ぶ川岸のコスタネーラ通りの堤防からは水平線だけしか見えないので、初めて見る人達は皆海かと思う。対岸に渡るにはフェリーボートで約3時間、水中翼船で約1時間かかる。 ラ・プラタ川の源流は南米第二の大河パラナ川と、アルゼンチンとウルグアイ両国の国境を流れるウルグアイ川、及びアルゼンチン内陸部に源を発するルハン川の三つの川で、これががブエノス・アイレスの北西約35キロの所で合流してラ・プラタ川になる。その内の一つパラナ川は、その上流でイグアスーの滝を作るイグアスー川とパラグアイの首都アスンシオンの西部を流れるパラグアイ川、そしてアルゼンチンとパラグアイの国境を画するピルコマージョ川が合流した川で、アマゾンに次ぐ大河である。 ![]() これらの川がラ・プラタになる合流地帯は蜘蛛の巣のように、無数の小河川に分裂して水郷地帯そ形成している。ラ・プラタ川の水は上流の土質が30%以上もの鉄分を含んでいるため、永遠に赤茶色で透明度はゼロに近い。しかし、生まれて以来川の水は赤いものと思い込んでいるポルテーニョ達は、この水の中で泳ぐし、釣りもする。大西洋に出てからも河口から400キロも離れたマル・デル・プラタの海岸では、なおどす黒く海の色を染めている。 イグアスーの滝(正確にはイグアスーと語尾にアクセントをつける)はアルゼンチン、ブラジル、パラグアイの3国に跨ると書いてある観光案内書が多いが、これは大間違いである。滝がないのにあるように誤解されているパラグアイの名誉のために、また滝は2国のものに疑問の余地がないと信じているアルゼンチン、ブラジル両国の自尊心のためにも、敢えて詳しく説明しておこう。イグアスーの滝の周辺では、パラナ川が南北に流れ、西側はパラグアイ領である。そのパラナ川に東から流れて来るイグアスー川が突き当たって合流しT字形を作り、北がブラジル領で南がアルゼンチン領である。このT字形の所がイスアスー川の終点で、ここから凡そ20キロ上流で、北から流れてきたイグアスー川はほぼ90度西ヘカーブしている。北から西へのカーブのため南側のアルゼンチン領が深く抉られて広くなり、落差がついたところがイグアスーの滝である。従って滝は紛れもなくアルゼンチンとブラジル両国の国境に跨っているのである。お互いに相手領の滝を眺め合う格好をしていて、それぞれの側が全く違った様相を呈している。このため、本当に鑑賞するにはどちらかの国のホテルに一泊して両方から鑑賞しなくてはならない。 ![]() アルゼンチン側には大小合わせて数十もの滝があり、それそれぞれに固有の名前がついていて展望台があり、それぞれの展望台を結ぶ遊歩道が、川の中央まで作られていて、じっくり鑑賞することができる。その中でも圧巻は、落差が80米もある「ガルガンタ・デ・ディアブロ(悪魔の喉笛)」と言う大きな滝である。ブラジル側には展望台が1ヵ所しかないが、ここで数十米の上空から落ちる大滝を見上げて驚嘆した後、これも1本しかない桟橋を合羽を着て先端まで行き、アルゼンチン側の無数の滝を一望するとよい。イグアスー川を挟んだアルゼンチンとブラジルの行き来は昔は渡し舟だけだったが、今では国際橋が出来ていて簡単な手続きで渡れる。両岸をじっくり鑑賞するにはやはり一泊は必要であろう。イグアスーへ行くにはアルゼンチンかブラジルのどちらかの飛行機を利用するのだが、両国ともそれぞれ滝に近い自国の領内に空港を持っていて、自国の飛行機は自国の空港に降ろす。しかし、どちらの飛行機のパイロットも着陸する前に滝の上を一周して乗客にサービスするので、天気さえ良ければ数十米の上空まで飛び散る水煙を通して、荘厳な景観が一望に出来る。見所の選択の参考に一口で言うと、個々の滝の迫力を見るならアルゼンチン側、ナイヤガラの滝が可哀想と言われるほどの雄大なパノラマを鑑賞するならブラジル側ということになろう。 ≪写真:上、手前ブラジル側、奥アルゼンチン側の滝。下、イグアスの滝周辺図≫ |