ここに1枚の古い文書がある。これは、1931年(昭和6年) 5月19日付けで、アルゼンチン海軍博物館・図書館理事のトーマス・オブリガード氏から、海軍参謀本部情報部長あてに発送されたものである。


 このピアノは日露戦争のときの、日本海海戦で大活躍をした東郷元帥率いる連合艦隊の主力艦隊に属していた、装甲巡洋艦「春日」の士官室に置かれていたものである。
 「春日」は海戦史上に残る有名な「T字型戦法」で、一時は先頭>から2番目に 位置していたため、バルチック艦隊の猛烈な砲撃にさらされ、大きな被害を受けた。そうした中でもピアノは、榴弾砲の砲弾が至近距離で炸裂したにもかかわらず、奇跡的に無事であった。

 「春日」は僚艦「日進」とともにアルゼンチン海軍が、イタリアのジェノバのアンサルド造船所に発注していた装甲巡洋艦で、 それを、ロシア極東艦隊に対抗するため、日本がアルゼンチンから、2隻で152万ポンドで譲ってもらったものである。

 2隻の巡洋艦は、引き渡される際には必要な調度品は全部揃っており、いわゆる”家具付き”の状態になっていた。春日の士官室に置かれた”ピアノ”もその調度品の 一つと数えられていた。日進にもピアノがあったのかどうかは不明である。

  このピアノは、イタリアのTURIN(トリノ)にあった、G.MOLAと言うピアノ製造工場>で作られた縦型ピアノであるが、製造年代は不明である。(下の写真参照)。

(概要)
                1931年 5月 19日

海軍参謀本部情報部長殿

           アルゼンチン海軍博物館・図書館理事
                    トーマス・E・オブリガ-


 本日、海軍博物館に縦型ピアノとオーク材の箱が搬入されたことを報告する。これらは1910年7月1日に我が国に到着以来、海軍施設に保管されていたものである。
 このピアノに関するいきさつについては、1910年6月10日の、下記の如き大統領あての海軍大臣のメモに記載されている。

       ーーーーーーー<メモ>ーーーーーーーーーー 
                   アエルゼンチン海軍省 
                ブエノスアイレス 1910. 6. 10
大統領閣下

  日本国海軍大臣閣下から、わが国海軍に、日進と春日の2枚の装甲鉄板と、春日のピアノが贈呈されました。間もなく到着するので、これを海軍施設に受け入れ、海軍博物館に保存することに決定しました。これには、これらの数奇な運命に関心が高いことを考慮し、装甲鉄板が貫通されたときの場所や状況、春日の士官室で榴弾砲弾が爆発したのに、ピアノが無事であったことの詳しい報告書が添付されています。 以上。
        ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

                  トーマス・E・オブリガード署名

 2005. 3月撮影


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