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ラテン・アメリカ人の人間生態学   No.1                      
(良いことが必ず報われるとは限らない) 

  日本が残暑にあえぐ8月は、アルゼンチンのブエノス・アイレスは一年中で一番寒い季節である。雪は全くと言っていいほど降らないが、気温は零度を下回るので、路上には氷が張る。同じ寒さと言っても、湿度20とか30%に下がって、空気がからからになる東京と、海のように広いラ・プラタの大河から立ち登る湿気に覆われて、湿度が70とか80%にもなるブエノス・アイレスとは寒さの質が違う。寒さの質とは、要するに感じ方である。日本の寒さは、暖かい部屋から外へ出ると、とたんに≪おお〜寒い!≫と感じる寒さである。一方、ブエノス・アイレスの寒さは、湿気が多いので寒気が肌の毛穴から中に沁みこんでくるため、体の内側から徐々に寒さを感じてくる。だから、女性達、特にお年寄りは、かなり厚着をする。毛皮のコートはもう普段着である。
 日本とアルゼンチンは地球上の位置が緯度も経度もほぼ正反対の関係である。東京の真下を掘るとブエノス・アイレスに出ると言うが、実際はちょっとだけずれているようだ。しかし、180度も違うと、人間の物の考え方をはじめ、台風の回る方向や洗面所で流す水の渦の方向までも反対になる。それらは、日本人から見ると、誠に理解に苦しむようなことから、羨ましく感じるようなことまで種々様々である。
  アルゼンチンをはじめとする南米大陸の国々(小さな3つの国を除く10か国)は、人種の坩堝と言われるが、ブラジルを除いて、みなスペインが宗主国だったため、その生態には共通点が多い。地球の裏側の人々の生態とはどんなものか、お楽しみにして頂きたい。

  仏教国の日本では8月になると、月遅れのお盆で、仏壇のある家々は、精霊の送迎のためお墓との往復に、離れている家族の受け入れにと大忙しである。アルゼンチンにも10月に「死者の霊をともらう日」がある。これに因んで、先ずこんな小話から紹介しよう。

 ・・・ 一人の男が三途の川に着いた。対岸には二つの世界があり、川岸には聖パウロがいて、着いた者の行き先を決めている。聖パウロが、たった今着いたばかりの男に聞いた。

   『お前は生前どんな職業だったのかな?』
   『サッカーのレフェリーをしていました』
   『そうか、、、、川向こうには二つの世界があるのじゃが、生前の行い次第で、楽園に行くか、地獄へ落ちるかを決めることになっておるんじゃよ。お前が楽園に行けるような生き方をしたかどうかを聞かせてくれ』

   『勿論です。私はサッカーのレフェリーに求められる公正と公平、これをモットーに生きてまいりました』

   『たとえば、どうゆうことをしたのかね?』

   『私は、リーベルとボカ(注)のクラシック・カードのレフェリーをやっておりました。ええ〜〜 ボカのスタジアムで、、、 ボカのフアンは試合終了寸前まで大喜びをしていました。そりゃそうです、0−0でも引き分ければチャンピオンになれた訳ですから、、、しかし、ロスタイムに入って、リーベルのフォワードの攻撃に、ボカの選手がペナルティを犯したんです。しかも、ゴールエリアだったんでペナルティキックに、、、』

   『おお〜〜、それは公正、公平なことをしたな。人間、公正・公平でなきゃいかん。ところで、それをした時期は何時ごろかな?』

 レフェリーは時計を見て、
   『ほんの2,3分ほど前なんですよ!』

 
★人間の世界では常に公正・公平な生き方が求められるが、そうゆう生き方をしたからと言って、必ず報われるというわけでもないことを知っておくべきである。

 (注)リーベル(リーベル・プラーテ)はパレルモ公園内のラプラタ川沿いに本拠地スタジアルがあり、ボカ(ボカ・フニオール:ジュニアー)はブエノス・アイレス有数の観光地ラ・ボカ地区に本拠地、ボンボネーラ・スタジアムがあり、ポルテーニョ(ブエノス・アイレス子)の人気を二分している。