ラテン・アメリカ人の人間生態学 No8 【この世の先のことについて予測や観測に惑わされるなかれ】 戦争にしても、大都市へのテロ攻撃にしても、はたまた、地震や洪水や大規模な火災や、交通事故などまで含めても、事変、天災、事件、事故さらには環境破壊まで、およそ人間社会が被る災厄は、圧倒的に北半球が多い。地球儀を眺めても、陸地が断然北半球に多く、住んでいる人間も多いのだから当然と言えば当然だが、それにしても、南米も近年は自然災害が増えているようである。 1996年12月29日にグアテマラの内戦が終わって以来、中南米では戦争と言えるものは起きていない。極地的な一時的な騒動はあるけど、世界のトップニュースの座に1か月も居座るなんて出来事は、もう10年以上も聞いたことがない。日本が核戦争に巻きまれそうになったら、文句なしにアルゼンチンかウルグアイへ逃げるのが一番良いと思う。ただし時間の余裕があればの話ではあるが。逆にいえば、アルゼンチンが戦場になる時は地球滅亡の時であろう、と言えるほどアルゼンチンやウルグアイなど南米南部地域は安全である。(少し大げさな言い方かもしれないが)。 勿論現代病の一つである、失業や貧困や麻薬などが原因で、殺人、強盗、かっぱらいなどの犯罪が急激に増えていると、ブエノス・アイレスにいる友人は嘆いている。しかし、こんなことは、世界のどこでも起きていることで、ちっとも珍しくも、特に気の毒でもない。大規模な都市型テロが起きないだけましである。 ラテン・アメリカは、殆どスペイン一国で征服されたので(ブラジルはポルトガル)、宗教は圧倒的にキリスト教が支配している地域で、イスラム教は、仏教やロシヤ正教などと同じの、ほんの一握りの少数派でしかない。したがって、イラクやアフガニスタンでのように、キリスト教対イスラム教の争いなどの構図がないので、(もう何十年前になるかと思うが、ブエノス・アイレス中心部にあるイスラエル大使館が爆破された事件があって以来)、大きなテロは発生していない。 さらには、南北アメリカ大陸の大西洋岸は地震がない地帯なので、ブエノス・アイレスは地震の心配は全くない。戦争がなくテロもなく地震がないとなると、怖いのは異常気象による天災だけだ。この位の心配は、生きているための地球に払う税金だと思って、耐え忍ばなくてはなるまいと思う。 アルゼンチンは南北二つの国で構成されていると言われる。中央部のコルドバ州を境にして、南半分はヨーロッパ移民の子孫の白人国、北半分は、ペルーを中心にエクアドル、ボリビア、チリまでの広い版図を支配したインカ帝国の範疇にはいるため、その子孫の人種(インディオ)が多く住んでいる地域(国)である。 ・・・ あるインディオ部族の酋長が亡くなり、後継者として一族から信頼されている若いインディオが選ばれた。 秋が深まり一族郎党から、若い酋長は聞かれた 『酋長、間もなく冬が来るけど、今年の冬は寒いんでしょうかね〜?』 若い酋長は、亡き老酋長から、どのようにして天候を見極めるか、予測方法を聞いていなかったが、即座に答えなければ一族の信頼を失うと思って、とっさに答えた。 『お〜、今年の冬に備えるために薪を集めておくように! 寒くなっても困らないように準備するのは当然だ』 数日後、若い酋長は、こゆうことは気象庁に聞けばいいんだということを思いつき、早速電話をかけた。 『もしもし、今年の冬は寒いでしょうか?』 気象庁の担当官は答えた。 『多分、寒くなるという予測です』 若い酋長は一族郎党に命令をだした。 『寒い冬に備えて、精出して薪を集めるように!』 一週間後、若い酋長は再度、気象庁に電話をかけた。 『今年の冬は必ず寒くなるんですね?』 『勿論です』 と気象庁。 若い酋長は、改めて一族郎党に強い調子で告げた。 『集められるだけの薪、燃えるものを全部集めておくように! 今年の冬は特に寒くなるぞ!』 更に一週間後、若い酋長はまたまた気象庁に電話をした。 『今年の冬は絶対に寒くなるんでしょうね?』 電話に出た気象庁の担当官は答えた。 『今年の冬は例年以上に、物凄く寒くなります。観測を始めて以来の寒さになることは、間違いありません』 若き酋長は問い返した。 『すみませんね〜 何度も聞いて、ところで、気象庁はどうやって、今年の冬が観測史上一番の寒さになると、予測できるんですか?』 担当官は声を少し潜めて答えた。 『あのですね〜 インディヘナ(インディオのこと、インディオは差別語)が必死になって薪や燃料を集めているので、そうゆう年の冬は必ず寒くなるんです』 ★誰も、この世の先のことに絶対的な予測をすることは不可能である。政治:経済も、社会情勢も、株価も、自然現象:天候も、男女の恋も、愛し合った夫婦の将来も、確固とした予測はできないのが、この世である。予測や観測に右往左往することは避けるべきである。 |