ラテン・アメリカ人の人間生態学 No.15 【選挙キャンペーン中の約束に決して騙されてはならない】 アルゼンチンも日本も選挙は血みどろである。「刺客」を送ったり、「怨念を晴らす戦いだ」とか、凄まじい選挙戦が繰り広げられる。立会い演説会に行くと”チョリパン(ホットドック用のパンにチョリッソを挟んだサンドイッチ)”やコーラなどが配られることもある。そして口約束を連発する。こうした選挙戦のさなか、ある有名な政治家が横断歩道を渡っていた時、猛スピードで走って来たトラックに跳ねられ、救急車の到着が遅れたこともあったが、医者の手当ても虚しくあの世へ旅立ってしまった。 三途の川で待っていたのは、聖ペドロとお釈迦様だった。 聖ペドロが言った。 「ここへ来るときは、大抵の者は行き先がきまっておるんじゃが、お前は政治家だったそうだな? ここでは”天国”か”地獄”のどちらかに行くことになっておるんだが、お前にゃ自分でどちらかを選んでもらう。24時間ずつ滞在して、どちらにするか決めてもらうことにする。どっちに先に行きたいかな?」 有名な政治家は少し思案をして 「先に地獄を見せて下さい。楽しみは後に残しておきたいので、、、」 お釈迦様が案内してエレベーターで地下に降り、辿りついた所に ”地獄”と大書された門があった。そこに入ると数年前に亡くなった友人の政治家や労働組合の仲間など大勢の顔、顔、顔、、、、、緑の芝が広がるゴルフ場で再会を喜び、ゴルフに興じ、準備されていたワインや高級酒を飲み、豪華なフランス料理に舌鼓を打つ。美女が寄り添い丁度良い湯加減の風呂やサウナに入り、地獄を管理する赤鬼や青鬼と気軽に話し、親切にしてくれたひと時を過ごしていたら、あっと言う間に24時間が過ぎてしまった。エレベータで三途の川に帰るときには友人達全員が名残惜しそうに見送ってくれた・ 翌日、またお釈迦様が迎えにきて 「今日は24時間、天国に行ってもらうから、このエレベータに乗りなさい」 雲の上でエレベータが止まったら、”天国”と書かれた門が、、、噴水を中心にした広場の周りには、ノーベル平和賞を貰った高名な学者や、医者達がふかふかなソファーに座り、書物に目を通している。エンジェルが飛び交いアルパや胡弓の音色がそこはかとなく漂う、神秘的な雰囲気の中で24時間を過ごして三途の川に戻ってきた。 翌日、聖ペドロとお釈迦様がやってきて彼に聞いた。 「二日間、地獄と天国を見てもらったが、どちらにするか決めてもらわにゃならに時がきた。どちらにするか決めなさい」 有名な政治家は、少し思案して二人に伝えた。 「天国はそりゃーそれなりに良かったんですが、やっぱり、地獄の方が、、、豪華な暮らし方が出来るように思いました。地獄にします」
聖ペドロとお釈迦様の二人が地獄の門の前まで付いてきた。 政治家が入った途端に門が閉まった。しかし、そこには一昨日とは全く違った光景が展開されていた。友人の政治家や労働組合の幹部達は、ボロボロの衣服を纏い、湯を沸かす大釜に薪を運ぶ者、それに投げ込まれる者、赤鬼、青鬼は鞭を振り回して休もうとする仲間を打ち据えたり、殴り倒したりしている。 緑の芝生は跡形もなく、豪華な食べものは何処にも見当たらず、飲み物などは影も形もない。ゴミ袋を漁っている仲間までが目に入った。驚いた政治家は赤鬼に 「一昨日とはまるっきり違うじゃないか、どうなってるんだ?」と聞いた。 赤鬼は落着いて答えた。「昨日までは選挙運動期間中だったんだ。もうお前は、”地獄”に1票を投票したことになるんだ」。 教訓: 選挙キャンペーン中の政治家の約束は、ただの口約束だけである。嘘をいかに上手につくかが、政治家の政治家たる所以であることを忘れてはなるまい。チョリパンを配る政治家は、当選したらチョリパン代以上のものを取り返すことしか頭にないのである。 |